★なまはげの独り言

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zoom RSS 戻り橋

<<   作成日時 : 2006/10/06 18:44   >>

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かなりの急ぎ足で下山したつもりだったが、
麓にたどり着くころにはもう辺りは仄暗かった。
村に続く一本道もその両側の田畑も、
夕暮れの風景は夜の気配に色を失う直前だった。

キノコ採りに夢中になり、つい山での時を過ごしてしまった。

道夫は帰宅を案じているはずの両親を思うと、
いささかの後悔を感じつつ、さらに足を速めた。
額に滲んだ汗を拭く余裕すらない。
気持ちは焦るばかりだった。


画像

村の入り口の戻り橋まで来て、
道夫はようやく安堵の息をついた。
ここからだと家まではあと僅かである。
「もうすぐだ」と思うと、
背中の荷を背負いなおし汗を拭く余裕が生まれた。
手ぬぐいを腰のベルトから外して、
道夫はぐるりと視線を廻らせた。
行く手の山の端が、
淡い赤光に燃えているのがわかった。
夜の近い夕刻は人影すら失せて、
寂しさと静けさが道夫を包み込んでいた。

ふと、苔の香りが鼻についた。
川風が汗ばんだ頬を撫でたせいだった。
道夫はその香りに、
忘れかけていた懐かしさを覚えた。

もう30年近くも前の子供の頃の事が、脳裏に蘇っていた。
そのころ、
道夫はよくじいちゃんの膝の上で昔語りを聞かされた。
じいちゃんは必ずのように、
最後には戻り橋に住むという人喰い老婆の話をしたものだ。


「ええが道夫。夕刻になったら戻り橋には行くでねえド。
あそごさあナ、人喰いババアが住んでいるがら。
ババアはナ、
暗ぐなってがら橋サ近づく者ァ捕まえで、
喰ってしまうんだド」

じいちゃんは声を落としてそう言った。
すると、囲炉裏をはさんで座っていたばあちゃんが、
入れ歯を外して欠け櫛のようになった口を大きく開け、
しわだらけの顔を近づけてよこした。
それが人喰いババアの印象となって、
おびえた道夫は、じいちゃんの胸に顔を押し付けたものだった。

「人喰いババアは、歯が悪りがら、
何度も何度もかじるんだド。
それが痛くて痛くてたまらねンだド」

そう言われると、道夫は本当に身体のあちこちに痛みを感じたりしていた。

大人になって時折思い出せば、
この話は陽が沈んだら外に出歩くな、
という戒めだったと思う。
恐怖心を利用しての戒めは、ナマハゲに共通する発想なのだろう。
そうは思ったが、道夫には強烈な印象で、
今まで夕刻の戻り橋には近づいたことがなかった。


そこまで思い至ると、道夫は目の前の戻り橋にゾクリと背筋を寒くした。
猫の子一匹いない戻り橋と、
その奥に広がる闇に道夫の恐怖心は大きくなったようだ。

「何を大人気ない事を・・・・・」

そう思いながらも橋の袂から一歩を踏み出せないのが、
何よりの証拠だ。


と、その時。
道夫は橋の前方に何かの気配を感じた。
ドキリと心臓が震えると、
喉には唾がなくなり、サーッと鳥肌が立った。

明らかに気配は人影であり、老婆の姿だった。
闇から生まれたそれは、
こちらの存在に気付いたのか橋を渡って近づいてくる。

足が動かない。
道夫は慌てた。

「道夫!道夫でねぇが?」
老婆は叫ぶと、駆け出した。

そのシワガレ声が陰を含んで聞こえると、
道夫はたまらずに身体の向きをかえた。
もう逃げることしか頭の中にはなかった。


ところが、逃げようとした瞬間、もつれた足が小石を踏んで、
道夫はもんどりうった。


捕まったら喰われてしまう・・・・
道夫は大地をもがきながら本気でそう思った。
恐怖で声も出ない状態になっていた。
もう老婆の足音は、すぐそこに聞こえた。



「道夫!どうした?」
老婆は転がる道夫の肩に手を置くと、道夫をゆすった。
手の冷たさは、生きている人間のものとも思えない。
「もう駄目だ」
道夫は目をつむった。
半分失神しそうであった。

「道夫!道夫!」
老婆は、また叫んだ。
その時、道夫は「おやっ?」と思った。
このシワガレ声には、聞き覚えがあった。

恐る恐る目を開けて見ると、
相手は確かに老婆だったが、母であった。
母は帰宅の遅い道夫を心配して、
戻り橋まで迎えに出たようだった。
ちなみに母の声がくぐっもって聞こえたのは、
母が入れ歯をはずしていたからであった。

あれから30年。
今では母もあのころのばあちゃんと同じ年代になっていた。
道夫は助かった喜びの中で、
つくづくとその事を思った。

母の手を借りて、起き上がろうとした時、
道夫は足首に激痛を感じた。
転んだ拍子にかなりひねってしまったようである。
しかし、人喰い老婆にかじられるよりはいい、
と道夫は思った。






んだば






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コメント(8件)

内 容 ニックネーム/日時
 こんばんは☆こねこです♪

 人喰いババァを想像してたら、なぜか「美輪○宏」さんを思い出しました(笑)。

 これって大人版「ナマハゲ」のお話なんでしょうか。それとも、また何かの教訓になるお話なんでしょうか・・・。

 ねこでした。ニャン☆
こねこ
URL
2006/10/06 21:30
唐突に 道夫で始まる文章に 最初なまはげさんの本名暴露記事か?と ドキドキしながら いや待てよ ちょっと違うぞ 恐い話だ・・・

でも 嫌いじゃないジャンルだから 結構好きです!!

オチは ちょっとわかり易いかも!!

お月さま 見えないですか?

大阪は見えてますよ〜!!

んだば・・・
+あい
URL
2006/10/06 22:00
☆こねこちゃんへ
 人喰いババアで美輪さんを思い出したら、彼(彼女?)に悪いですよ!
 これは、秋田の「こわいこわい物語」の一つです。難しい意味も戒めも何もなく、単純に楽しんでください。今日は仕事で疲れてしまい、手抜きのアップになりました。(ゴメン)
★なまはげ
2006/10/06 22:58
☆+あいさんへ
 嫌いなジャンルでなくて良かったよ!今日は仕事が手間取り、くたくたになって帰ってきました。新鮮なネタ探しも出来ず「こわいこわい物語」の一つを披露しました。
 実は、先月の10日に休んだっきり、毎日仕事が続いています。今日は手抜きになってしまってすみません。
★なまはげ
2006/10/06 23:03
戻り橋といえば、京都では
一条戻り橋。
鬼の伝説があります。
猫姫少佐現品限り
URL
2006/10/06 23:48
ずっと前に雪山で遭難した少女の話がありましたね。それを想い出しながら読みました。なんかハッピーエンドで良かったような,残念なような,不思議な気持ちです。
閑 客
2006/10/07 09:27
☆猫姫さんへ
 京都一条戻り橋の鬼の伝説を聞きたいものです。ちょっと調べてみますね。
★なまはげ
2006/10/07 17:12
☆閑客さんへ
 「トラコ沢の福寿草」ですね。覚えていてもらって嬉しいです。今回のお話は、民話ではなく比較的新しいちょっとこわいお話でした。心理をうまく突いてお話を盛り上げています。
★なまはげ
2006/10/07 17:16

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